「竹刀」は「日本刀」を模したものであり、剣道の技術や一本(有効打突)はそのことを前提にして定められている。これは、一本の基準に「刃筋」が定められていることからもいえよう。
しかし、日本刀の場合は当然「切る」・「突く」(時には「斬突」という方もいる)であり、竹刀の場合は「打つ」「突く」(打突)である。
実は日本刀だけではない。
日本刀を模したものとしては「木刀」もある。そして、木刀を用いることを前提として行われている杖道の場合、その表現は「打つ」ではなく「切る」となっている。
ところが、剣道の場合、「日本剣道形」や「木刀による剣道基本技稽古法」は木刀や刃引きによって行われるにも関わらず、その表現は「打つ」である。剣道、居合道、杖道の形の一本目の一部を確認してみよう。
<日本剣道形 太刀の形 一本目>:(打太刀)間合いに接したとき、機を見て右足から踏み出し、「ヤー」の掛声で仕太刀の正面を打つ
<全日本剣道連盟居合 一本目 前>:(要義)対座している敵の殺気を感じ、機先を制して「こめかみ」に抜き付け、さらに真っ向から切り下ろして勝つ。
<全日本剣道連盟杖道 一本目 着杖>:(打)八相に構えて間合いに進み、振りかぶりながら右足を踏み込み正面を水平まで切り下ろす。
なるほどなるほど。剣道では打つ、居合道と杖道では切ると表現しているようである。
あれ、ちょっと待って、
『剣道講習会資料』をみてみると、日本剣道形 太刀の形 一本目において、打太刀が仕太刀の正面を打つ時際の補足説明で次のようにはっきりと記されている。
「打つ」とは「切る」という意味である。
さらに、「木刀による剣道基本技稽古法」における「4 指導上の留意事項」でも、
(4)打突 イ 打突は、常に打突部位の寸前で止める空間打突となるが、刀で「切る、突く」という意味を理解させる。
とある。
つまり、全日本剣道連盟においては、「切る」と「打つ」を同様の技術のあるかの如く指導しようとしている。
確かに刀法を学ぶという視点において言わんとしているはよく理解できるし、日本刀を用いる技術をベースにし、その稽古方法として剣道が捉えられていたと考えれば、技術としても本来であれば「切る」技術を磨いていくべきであろう。
だが、技術としての剣道の求めるところが有効打突であって、あくまで「打(打突)」とされている以上、「切る」とは根本的な違いが生じてくるのである。特に、日本刀を扱ったことがなく、競技としての剣道のみを学んでいる方が「切る」技術をそのまま剣道で行おうとするとどうしても無理が生じてしまうのである。
「打つ」と「切る」の根本的な違いは気剣体一致の捉え方とも関わってくる重要な視点である。
試しにまな板に厚いお肉でもおいて、それを打ってみたり切ってみたりすると「打つ」と「切る」の違いがよくわかる。
一応一つだけ言っておく。
剣道のみを修行されている先生方がよく言葉にされるのは、
刀は引き切り、竹刀(剣道)は押し切り
ということである。日本刀を扱って武道を学んでいる人間にとって「引き切り」「押し切り」の観念はない。上がった刀は下ろすだけ。わざわざ引いて切るわけではない。そんなことよりももっと根本的な違いが「打つ」と「切る」にはあるということである。
文献:
・『剣道講習会資料』(2017 第6版一部修正)全日本剣道連盟
・『全日本剣道連盟杖道(解説)』(2017)全日本剣道連盟
・『全日本剣道連盟居合(解説)』
こちらを参考にして頂くと実際に読むことができます。⇨「全剣連書庫へ解説書3冊を追加公開」
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